素人アナリスト

海外企業の決算内容について書いています。

銘柄分析 <VISA INC> VISAの歴史と低配当の裏側

 

<歴史>

VISAはグローバルに決済サービスを提供する会社です。

 

起源は、Bank of Americaが1958年に設立したBankAmericardで、同年にBankAmericardで300ドルを上限とする紙媒体の汎用型クレジットカードを発行しました。1976年にVISAに名前を変更しています。

それまでクレジットカードというもは存在をしていたが、特定のサービスもしくは特定の企業にしか使えないクレジットカードが主流でした。従って、消費者は、お店やサービスによって何枚のクレジットカードを用意し、特定の使途にしかクレジットカードを使えなかったのです。つまり1枚で大半のお店をカバーするクレジットカードは当時は存在していませんでした。

 

そこで、BankAmericardは、汎用型(=どのお店でも使える)クレジットカードを導入しました。導入の仕方は現在のPaypayなどを想起するようなやり方でした。まず、Bank of Americaは、自社のマーケットシェアが高い地域の消費者に勝手にクレジットカードを配ります。その数は、200万と言われています。それと同時にBankAmericardを使えるお店を開拓し、2000を超えるお店でBankAmericardが使えるようになったことで、汎用型クレジットカードを導入することができました。(1970年で法律で禁止されるまでは、申し込みをしていない人もにクレジットカードを配っていました。)

 

BankAmericardがVISAという大企業になるきっかけとなった汎用型クレジットカードの導入でしたが、初期の頃は大きな損失をBank of Americaで出すことになりました。理由は単純で、信用調査(Credit scoring)もなしに、クレジットカードを配ったために、不正使用や貸し倒れが続出したのです。当初、Bank of Americaは4%の貸し倒れを見込んでいたが、22%の貸し倒れが発生しました。その結果、当時で20milドルという大赤字を計上することに。ちなみに、BankAmericardの導入を主導した担当者(Joseph P, William)が銀行のローン審査部に勤めたことがなかったため、そのような事態が発生したと言われています。

しかしながら、その後、BankAmericardのライセンスをアメリカの他銀行に拡大しながら、順調にシェアを伸ばして行きました。

1960年代から海外にも進出し、日本では、住友銀行と提携を行い、住友クレジットサービスを通じて、BankAmericardを発行していました。

 

<出典 : 三井住友カード>

 

転機が訪れたのは、1960年後半以降、決済トラブルが頻発するようになっていた頃です。Bank of Americaだけが、クレジットカードを発行していれば、自身の銀行内で支払と受取の処理(決済)が問題なく行われますが、ライセンスを付与している銀行が増えるにつれて銀行間の決済にトラブル起きてきました。当時は、まだ処理が自動化されておらず、クレジットカードの決済処理が非常に煩雑になっていました。(より詳しいクレジットカードの仕組みや歴史は別で記事にする予定です。)

そこで、BankAmericardのライセンスを受けていたワシントン州の銀行に在籍をしていたDeek HockがBankAmericardの決済トラブルなどの問題を検証するため委員会の議長に選ばれました。彼の説得によって、1970年にBank AmericardはBank of Americaのクレジットカード部門から切り離されて、National BankAmericard Inc (NBI)として法人化されました。Deek Hockが初代のCEOとなります。新生BankAmericardの運営は、すでにBankAmericardのブランドとして、ライセンスを受けていた銀行が、Deek Hockを中心として引き継ぐこととなりました。つまり、Bank of Americaを中心としていたライセンス供与ではなく、アライアンスという形でのBankAmericardの運営となりました。

一方で、米国外のBankAmericardも、1974年にInternational Bankcard Company (IBANCON)として、Bank of Americaの手から離れ、法人化されました。

当時は、米国外では、BankAmericaのライセンスを受けながら、それぞれ自国のカードブランド名を付けており、また決済システムもそれぞれ各国でバラバラでした。そこでIBANCONは、決済システムを統一するのと同時に、ブランド名の統一を図り、Deek Hookがどの国でも容易に認識できる言葉として、1976年に米国及び米国外も含めて、BankAmericardからVISAへとブランド名を変更しました。

 

その後、2008年にIPOをする際に、VISA Europe以外の部門(VISA international, VISA USA, VISA Canada)がVISA INC.としてIPOしました。VISA Europeは2015年にVISA INC.が買収する形で、現在のVISA INC.になります。

 

<VISAのビジネスモデル及びクレジットカードの仕組み>

VISAのビジネスモデルは、お金を受け取る人と払う人をつなぐ決済サービスを提供し、そこから生じる手数料やサービス料で稼いでいます。
 
そもそも、クレジットカードは、決済手段の1つで、お客とお店のお金の授受をカード会社を通じて行う仕組みです。具体的は、Issuersと呼ばれるカード発行会社が消費者の代金の請求を行い、Acquirersと呼ばれる加盟店管理会社がお店に対する支払いを行います。カード発行会社と加盟店管理会社を仲介し決済サービスを提供するのが国際ブランドと呼ばれるVISAやMasterCardです。整理すると、クレジットカードに関わる会社は3に分けられます。
 
  1. 決済サービスを提供している国際ブランド
  2. Issuersと呼ばれるクレジットカード発行会社
  3. Acquirersと呼ばれる加盟店管理会社

 

 
  
 
<出典 : VISA
 

VISAは1の決済サービスを提供する国際ブランドに属しており、VISAの場合には、決済サービスの提供のみに特化しています。

その他の国際ブランドとしては、下記があります。

  • MasterCard
  • American Express
  • Diners
  • Discover
  • JCB
  • 銀聯

VISAとMasterCardは、決済サービスのみに特化していますが、American ExpressやDinersやJCBは決済サービスを提供するのに加えて、Issurersとしてクレジットカードを自身で発行しています。

 

2と3は、海外では銀行が担うことが多いですが、日本の場合には、クレジットカード会社が発行会社と加盟店管理会社を兼ねています。具体的には下記の会社などがあげられるかと思います。

話は逸れますが、海外ではクレジットカードというとリボルビングカードというのを指し、消費者は一定額の借入枠(Credit)を銀行から与えられ、その枠範囲でカードでの支払いができ、また返済を行います。そして、残高に対して金利がかかります。

日本で一般的なクレジットカードというのは、チャージカードという概念に近く、単なる後払いでおおよそ1ヶ月後に請求がきて支払いをカード会社に行います。金利負担はなしです。リボルビングは、日本ではリボ払いと呼ばれ、リボ払いを設定し、一定期間をすぎるとその借入残高に対して金利がかかります。リボ払いが海外でいうクレジットカードのイメージです。(その辺の詳しい話は、別の記事で紹介をしたいと思います。)

 
VISAの収益としては、決済サービスに特化した形となっているので、VISANetを通じた手数料ビジネスとなっています。従いまして、VISAには、通常の金融機関のような与信ビジネスによる金利収入というものはありません。VISANetという決済サービスを通じた決済ごとにかかる手数料及び為替手数料、そしてリスクマネジメントなどの付加サービスを提供することによって収益を得ています。
 

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<出典 : VISA
 
そして、VISAのシェアは、いくつかの出典によって異なりますが、中国を除く市場シェアは取引量ベースで大体60%に上ります。(MasterCardが30%になり、2社で市場の90%に上り、寡占市場となっています。)ちなみに、中国では、銀聯カードのみとなっているようです。
 
 

 <VISAの財務分析>

VISAの株価 (5年分)

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 綺麗な右肩上がりになっています。配当利回りは、Google Financeによると0.64%と低めとなっていますが、株主還元はほぼ100%の会社となっています。後ほど解説します。
 
続いて、売上/営業利益/営業利益率になります。
 
<出典 : Morning Star>
 
売上高は、2018年においてUSD20bil (2兆2000億円)を超えており、営業利益は、驚異の60%を超えています。日本でも屈指の営業利益率を誇るファナックキーエンスをも軽く超えています。寡占市場だけあって、利益率も驚くほど高いです。
また売上及び営業利益の成長率も毎年10%-20%と大きく成長を続けています。
今後のキャッシュレス社会の拡大を鑑みると、まだまだ成長が続きそうな気がします。
 
次にキャッシュフローを見てみると、
 
特徴としては、毎年10%-20%の成長を遂げながらも、投資CFが非常に小さいことがあげられます。2016年は特殊要因で、2008年のIPOの際に、完全な別会社としてVISA Europeが残っており、2016年にVISA INCがVISA Europeを買収したことから投資CFが大きくマイナスになっています。
 
そして最後に、配当及び自社株買いを見てみると、
 
2016年の特殊要因を除くと、配当よりも自社株買いが大きく、その割合は、Free CFの80%ほどとなっています。つまり毎年配当ではなく、ほとんど自社株買いによって株主に還元しているということになります。
 
ご存知の方も多いかとは思いますが、配当では、配当を受け取るの度に税金がかかる一方で、自社株買いは、税金の繰り延べができ、長期保有になればなるほど、リターンに大きな差が出てくることになります。配当による安心感などの心理的な要因を除けば、自社株買いの方が税金の面で合理的で、VISAの判断は理にかなっていると言えます。
 
またVISAの株式数は、下記の通り、自社株買いの効果で毎年下がっています。
 

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<出典 : Macrotrends>
 
その結果、毎年EPSが上昇し、株価も配当がないかわりに、右肩上がりで上がっているという構図になっています。

 

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 <出典 : Macrotrends>
 
VISAの株価の上昇は、単なる売上/利益の成長だけではなく、自社株買いによるEPSの上昇からも来ていると言えるかと思います。配当は低いけれども、株主還元はかなり手厚いVISAは、長期保有にもってこいの銘柄かと感じています。

プロフィール

当ブログにお越しいただきありがとうございます。

 

<自己紹介>

  • 年齢 : 30歳台前半
  • サラリーマン:メーカの経理
  • 家族構成:妻/娘
  • 趣味:決算書の輪読および不動産物件の閲覧

<ブログの内容>

英語が比較的得意ということもあり、海外の決算書を趣味で読んでいます。その趣味を生かして、英語の勉強も兼ねながら、海外企業の決算や海外ニュースについて解説していきたいと思います。また、自身も日本株および米国株に投資を行なっているため、投資の考え方やポートフォリオの組み方についても書いていきます。(ポートフォリオは大半が米国のインデックス投資です。)